2)関節リウマチと骨粗しょう症
大阪市立病院医学部附属病院 骨・リウマチ内科
講師 後藤 仁志(ごとう ひとし)
関節リウマチ(RA)における骨粗しょう症には、局所性(関節炎が起きている部位)の骨代謝異常と、全身性の骨代謝異常があります。どちらも、骨の新陳代謝が速くなることが原因で、そのために骨をつくるのが追いつかなくなって骨が弱り骨折し易くなります。
局所性の骨代謝異常はRAの発症早期より全身性骨粗しょう症に先駆けて現れ、二つに分けられます。ひとつは、痛みや関節の動きが制限されることにより骨密度が低下するもの、もうひとつは、炎症関節近傍の骨粗しょう化が急速に進行するものです。炎症関節では骨吸収促進する炎症性サイトカインが誘導されて、骨を壊す細胞の数が増えると考えられています。全身性の骨代謝異常は、主に骨吸収を促進する炎症性サイトカインが増加して、日常生活動作が低下することが原因だと考えられています。さらにRAではカルシウムは常に減少傾向にあります。これらの結果、RA患者においては骨折の危険度が高く、大腿骨頚部骨折は1.51倍に、骨盤骨折は2.56倍に増加しています。
この他に、リウマチ治療薬による骨粗鬆症も考えられます。特に重要なものはステロイド薬です。RAでは少量のステロイドが長期間、投与されることが多いのですが、これにより骨を作る細胞の働きが抑えられますので、長期の使用は出来るだけ控える方が良いでしょう。しかし、代表的なステロイドであるプレドニゾロンでは、日常生活動作が保たれている場合には骨塩量の低下が少ないことが分かっていますので、患者さんによってはむやみにステロイドの投与を控える必要はありません。非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)や疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)は、臨床的に骨粗鬆しょう症を誘発したという報告はありません。メトトレキサート(MTX)は、癌治療時のように大量投与した場合は、骨塩量低下や骨折の原因となることが報告されていますが、RAでの少量使用では骨への影響はなく、好ましい方向に働くと考えられています。生物学的抗リウマチ薬は、炎症性サイトカインを抑制することにより骨粗鬆症の進行を防ぎます。
最後に、治療についてです。局所性の骨粗鬆症に対してはRAのコントロールが最も重要です。炎症性関節の近傍で著明に増加している骨吸収性のサイトカインは、炎症を抑制することによって正常になります。全身性の骨粗しょう症に対しては日常生活動作の低下を防いで骨量減少を抑制することが第一です。とは言っても、RAの場合は関節破壊の進行を予防する観点から、病変部に過剰な負荷をかけることは好ましくありません。一般的に行われている骨粗しょう症の体操も好ましくない場合がありますので、どんな運動がよいかは主治医に相談してください。薬物療法としては、不足しているカルシウムを補充し、ビタミンDの投与を行います。さらに過剰になっている骨代謝をビスホスホネートにより治療します。さらに骨密度が低下した場合は テリパラチド(1-34PTH)が有効です。
講師紹介
大阪市立大学卒業、医学博士。専門は骨代謝。現在、大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学講師。日本脊椎関節炎学会評議員、日本骨代謝学会評議員、日本骨粗鬆症学会評議員。